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★【ニュースリリース】高木教授、古賀院生がクロール泳で腕を速く回すだけでは速く泳げない理由を解明

クロール泳でただ腕を速く回すだけでは速く泳げない理由を解明

ARIHHPの高木英樹教授と、ARIHHPで推進する教育プログラム:HHP学位プログラム2年の古賀大樹さんらは、圧力分布計測と3次元動作分析の併用により、クロール泳においてストローク頻度を過度に上昇させた際の泳速度停滞要因の解明に取り組み、過度にストローク頻度を上昇させても、泳者の手部において発揮される推進力が低下することにより、泳速度が上昇しなくなることを明らかにしました。
この成果は、2020年9月29日付で英国の国際科学誌 Sports Biomechanics にオンライン先行公開されました。

<成果のポイント>

1. クロール泳において,ストローク頻度 (単位時間当たりに腕をかいた回数) の上昇に伴い泳速度は上昇するが,至適なストローク頻度を超えると泳速度が上昇しなくなることが報告されていました.

 

2. 本研究により,過度にストローク頻度を上昇させても,泳者の手部において発揮される推進力が低下することにより,泳速度が上昇しなくなることが明らかになりました.

 

3. 特に手掌側で水から受ける圧力の低下が,推進力の低下を招いているため,より速く泳ぐためには高いストローク頻度でもストローク後半で手部の角度を適切に保つ(手掌面を移動方向に向ける)ことが重要であると結論付けられました.

 

 

 

図1.異なる迎角の模式図.a: 迎角が保たれ,手部の移動方向と手部平面が比較的垂直に近い.この時,手掌で計測される圧力値は高い.b: 過度にストローク頻度を高め,迎角が小さく,手部平面と手部の移動方向が平行に近い.この時,手掌で計測される圧力値は低い.

 

<概要>

筑波大学体育系ヒューマン・ハイ・パフォーマンス先端研究センター所属の高木英樹教授と同センターが主導するHHP学位プログラムコース所属の古賀大樹さんらは,圧力分布計測と3次元動作分析の併用により,クロール泳においてストローク頻度を過度に上昇させた際の泳速度停滞要因の解明に取り組みました.

競泳のクロール泳では,下肢動作に比べ上肢動作による推進力発揮割合が高く,上肢によるストローク頻度が泳速度の主な決定因子とされています.しかし,ストローク頻度を上昇させてもある一定の頻度を超えると泳速度が上昇しなくなることがこれまで報告されてきました.本研究では,そのような過度にストローク頻度を上昇させた際に,なぜ泳速度が上昇しなくなるのかを本研究グループが開発した圧力分布計測(泳者の身体部位表面に圧力を計測する小型のセンサを取り付け,計測された圧力値から生じた力を推定する手法)と水中でのリアルタイム3次元動作分析を併用することで,流体力学的観点から明らかにすることを試みました.

本研究における新たな発見は,至適なストローク頻度を越えて頻度を増加させると,1ストローク当たりの推進距離(ストローク長)が短縮すると同時に,手部で発揮された推進力も低下していました.この時,ストローク後半において手掌面が手部の移動方向と成す角度(迎角)が小さくなり,手掌面が水を切るような動作になっていたのです.ストローク頻度を過度に高くすると,手掌面が水から受ける圧力(動圧)が高まり,それに応じて手部に作用する力も大きくなりますが,同時にその力は手部の移動を阻害してしまいます.そのため,泳者は至適以上の過度なストローク頻度を達成するために,やむなくストローク後半で水を逃がすような動作をして手掌面で受ける動圧を調整し,高い手部速度をなんとか維持しようとしたと考えられます.しかしこのような動作をすると,結果的に推進力やストローク長は低下するため泳速度が上昇しなくなってしまうのです.

しかし裏返せば,ストローク後半に手部の迎角を適切に保ったまま,ストローク頻度を高める筋力と技術を身につけることが出来れば,手部推進力およびストローク長の低下を防ぎ,泳速度の向上が期待できると考えられます.

 

研究の詳細についての資料(日本語)はこちら

 

<掲載論文>

【題 名】

Effects of exceeding stroke frequency of maximal effort on hand kinematics and hand propulsive force in front crawl

(最大努力のストローク頻度を超えることがクロールの手部キネマティクスおよび手部推進力に及ぼす影響)

 

【著者名】

Daiki Koga, Tomohiro Gonjo, Eisuke Kawai, Takaaki Tsunokawa, Shin Sakai, Yasuo Sengoku, Miwako Homma and Hideki Takagi

 

【掲載誌】

Sports Biomechanics (DOI: 10.1080/14763141.2020.1814852)

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/14763141.2020.1814852

 

<問合わせ先>

高木 英樹(たかぎ ひでき)

筑波大学 体育系 教授

〒305-8572 茨城県つくば市天王台1-1-1

E-mail: takagi.hideki.ga@u.tsukuba.ac.jp

Tel: 029-853-6330

 

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